サイモフェン 少年期
辺境の大洞窟の民の住まう《調律師の村》に、
十数年ぶりに生まれたひとりの子ども。
古い風習に縛られた集落の中にあって、
その少年はいたずらな仔猫のような目をして、
好奇心旺盛でなにものをも恐れず、
禁じられたことすべてを破りにゆく性分だった。
もしあなたがこの少年に出会うならば、
彼は期待に満ちた眼差しで、あなたに興味を示すだろう。
そして彼に夢を問うならば、
彼は目を輝かせて答える筈だ
“洞窟の外の世界を見てみたいんだ”と。
――本来ならばもたらされるはずのなかった出会いが、
そんな彼の未来を大きく動かすことになる。
story
禁忌などというものは、
大人の言う都合のいい出まかせだ。
子供の頃から、サイモフェンはそう思っていた。
禁じられる理由があるのなら、
それを言葉にして話してみればいい。
説明も出来ずに「してはならない」なんて、
どうせ大人達も理由を知らないだけだ。
だから俺は身をもって証明してやるんだ、
そんなモンはへいちゃらだって事を。
「――サイモフェン、そこに座りなさい」
石の力を持つ者として見込まれ長老に引き取られたものの、
長老の繰り出す日々のお小言に、少年は心底参っていた。
無論自分が日々言いつけを破るせいだというのは知っている。
けど怒ったってどうせ俺はやるんだし、
怒るだけ時間の無駄だし疲れるんじゃない?
そう言ったら頭をはたかれた。理不尽な事が多い。
――そのような気質の彼である、自然に反抗期は訪れた。
彼が洞窟で一番好きな場所は、
月の女神に捧ぐ祭祀を行う、月を望む大空洞である。
大きく開けた空に月が浮かび、静謐な湖にもひとつ月がゆらぐ。
その場所が好きだった。とりわけ、太陽ののぼる頃が。
太陽ののぼる頃に出歩けば、大人たちは怒り出す。
そんな時間に出歩くなんて、皆と一緒に起きて一生懸命働きなさいと。
それに、陽光に触れてはならないの。それは禁忌だから。
あんなものに触れると、死んでしまうよ、と。
――禁忌などというものは、
大人の言う都合のいい出まかせだ。
大空洞から望む空に、月のかわりに太陽が浮かぶ。
まぶしくて直視の出来ないそれを見るかわり、
陽光を浴びて煌めく湖を眺める。
月灯りののぼる頃には暗く沈んでいたすべてが、
陽光の下では鮮やかに色を取り戻す。
見ろよ、こんなにキレイなのに。
石だって、ここで見るほうがずっとキレイなのに。
陽光がふれたからってどうだ、俺はぴんぴんしてる。
…ちっと怖いから、なるべく日陰にいたけどさ。
ここに入り浸るのは、その美しさに惹かれたからもあったが、
彼の反抗心のあらわれでもあった。
そうして入り浸っていた彼の前に、
本来ならば存在し得なかったはずの邂逅が訪れる。
「――いっけね。起きてんじゃん、誰か」
空を仰いでいた彼の前に訪れた奇妙な二人組。
――彼らは学者と用心棒だといった。
「――少年。
お前、外が見てえのか? 珍しいなあ、この洞窟の連中は外を嫌うって聞いたのに」
隔絶した環境で育まれる文化を見守り研究すること。
それが彼らの目的であって、声を掛けるなど本来ご法度だ。
それでも用心棒は、見つけた少年に声を掛けた。
――きっと、その用心棒はただの気分屋だったのだろう。
そして学者は雇う相手を間違えた。それだけだったのだと思う。
それだけのかけ違いが、少年に外の世界を夢想させた。
その用心棒は文字を教えてくれた。
与えてくれた本も、擦り切れるまで読んだ。
語り聞かせてくれる物語に、まだ見ぬ世界に、
無数に存在する此処にはないものに憧れた。
少年は成長し、
祭祀場である大空洞の壁を登り、
――そして見下ろした崖下の何と眩しくて広い事だったろう。
ああなんて、無責任な男だったのだろう。
そいつを知って、外を目指さねえ男がいるかよ。
――17歳の頃、サイモフェンは飛び出した。
窮屈でつまらない村を捨てて、
振り向かず、期待に胸を膨らませて。
禁忌の森の、その向こうへ。
容姿にまつわるもの
12歳頃
17歳頃
hair & eyes : あかるい金緑
洞窟の民の例に漏れず、儚い色の髪とひとみを生まれ持った。
その色彩故に、守護石として授けられたクリソベリルを与えられている。
華奢で色白。か弱げな印象を受ける。
民の多くがそうであるように、
洞窟の虫や草から得られる糸を縒り織られた着衣を纏う。
色のない衣類を身に着けるかわりに、
鉱石から作られた顔料で染めた腰帯や飾り紐を好んで身に着けている。
濃い色や鮮やかな色を好む。
基本的には表情は明るく、快活。
いたずら者の仔猫のような顔つきをしている。
後に大人達への反抗心を抱き始めてからは、
斜に構え、不貞腐れたような表情をしている事が多いが
義妹のルーナエの前では世話好きで快活な様子を見せる。
家族
肉親に、細工屋の父親と母親。母親は早くに亡くなっている。
"石の力"を扱う才能ありと見込まれ、
3歳の頃に村長(むらおさ)である長老の元に引き取られている。
その他、洞窟の民は徐々にその数を減らしており、
一族の全てがひとつの家族、共同体として存在しているため、
実質サイモフェンは誰からも我が子のように扱われてきた。
12歳年下の織り屋の娘ルーナエが産まれた後も、
当然のように彼女を妹として扱っている。
生活
陽光降り注ぐ世界が禁忌とされており、
民たちは基本的に、月がのぼる頃に目を覚まし活動を始め、太陽がのぼる頃に眠りに就く。
その為、太陽ののぼる頃に出歩くことも禁じられているが、
サイモフェンは空が白む頃まで起きている事を好む。
その為、他の者が起き出す頃には寝坊するなど、
生活態度はお世辞にも良いとは言えない。
村長に石の力の事を教わっているが、あまり聞いていない。
その他、細工屋である父親のわざを学んでいる。
この父親の作り上げる飾り紐や細工品を気に入っており、
そちらの習得には前向き。
その他、祭祀場である大空洞に入り浸り、空を見上げる事を好む。
子供の時に民俗学者の用心棒に本を与えられて文字を教えられてからは、
この祭祀場の片隅に本を隠し、訪れては勉強し、本を読んでいた。
毎日妹の所に訪れる事だけは欠かさず、
外への憧れや、故郷を出ていく事なども彼女にだけは語っていた。
…余談だが、民の言葉は外界の名残がある。
民俗学者の見解のひとつに、
洞窟の民たちは、皮膚のやまい故に光を避けて逃げ込んだ者の末裔ではないかというものもある。
村には文字の文化がなく、詳細な記録は残されていない為、
真偽の程は定かではない。
人柄
村で長年待ち望まれた子供である為、
幼少期の彼は、とにかく誰からも我が子のように扱われていた。
その為か、彼自身も誰にも遠慮する事がなく、
自分が一番偉いと思っているフシがある。
彼が12歳の頃に産まれた織り屋の娘ルーナエとの出会いが、
サイモフェンの長く気ままな末っ子生活に変化をもたらし、
兄として彼女を守ろうという意識を芽生えさせた。
基本的には快活で物怖じしない。好奇心旺盛。
自分が納得するまで止めない質の子供であり、
禁じられた事も、納得する理由を提示しない限りは従おうとしない。
反面、理詰めで理解させられれば素直に従う。
子供の時から飾りや色に対する執着が強い。
とりわけ好みがうるさく、子供の頃から気に入らない色だと着けたがらない。
太陽の下の自分の飾り紐や腰帯の鮮やかな色が気に入っている。
だからこそ、それを禁じられる事への反感が強かった。
しかしそんな彼も、
幼い頃は「洞窟がこの世界の全て」だと信じて疑わなかった。
民俗学者と出会ってしまった事で、
「外の世界」の存在を強く意識するようになる。
先述の通り、大人には反感を抱く一方で妹にだけはとにかく甘く、
つまらない大人達のようにはなって欲しくないと考えている。
彼女にだけは世話焼きで、面倒見がいい。
しかしながらサイモフェンの普段の考えは極めて危険思想であると考えられており、
成長するにつれ、ルーナエに近づく事をよく思わない大人も増えた。
その事もまた大人に対する反感の原因のひとつ。
特性
point
夜目がきくが、その分明るい場所を苦手とする。
手先は器用だが、子供のためとりたてて力を持たない。
skill 石の加護ex1:守護石クリソベリル
故郷では石の力が増幅される為か、
石に宿るという予知能力の片鱗を見せる事がある。
この事が彼を"石の力を持つもの"と認識させる切っ掛けとなった。
この時間に魚を釣るとたくさん釣れるだとか、
そういった事に利用された。
skill 石の加護ex2:石の声
鉱石に波長を合わせる事で、
残された記憶を微かに読み取る事が出来る。
大洞窟の石たちは、歌声のようなものを微かに知覚させるものが多い。
民たちに継がれてきた伝承の歌の記憶かもしれない。
その他
故郷を出て街に辿り着き、真っ先にやった事は、
石や髪、故郷の布を売って身なりを整える事だった。
故郷を思い起こさせる明るい色の髪は染め、
これまで着る事の出来なかった鮮やかな色の服を買い、
そして都会に感化されながら、彼のファッションはやや迷走を始めていく。
彼にとって「暗い色の髪」は反逆の証であり、
鮮やかな色は夢にまで見たものだった。
余談だが、故郷には若い女性は少なかった為、
女性に憧れる一方で、実際に会うとどう振る舞っていいか分からない。
大体の年下には兄貴風を吹かせる。
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